こんにちは!
ポップアップラボの菊野です!
東京都北区の歴史ある銭湯、滝野川稲荷湯。映画『テルマエ・ロマエ』など、映画やドラマのロケ地としても使わていて、昔ながらの建物には心惹かれるものがあります。
稲荷湯のすぐとなりにある、元々は従業員の住居として使われていた長屋を改修した「稲荷湯長屋」は、ポップアップ出店などもできる場所。
そして、稲荷湯長屋の場づくりや運営に携わっているのが「一般社団法人せんとうとまち」です。銭湯がある街並みの記録や、近年廃業も増えている銭湯がこれからも続いていくための活動をしています。
せんとうとまちのメンバーで、稲荷湯長屋の運営をしているサム・ホールデンさん。私自身が稲荷湯長屋で出店した際、登山後に友人と来店してくれたのが嬉しくて、印象に残っています。
今回はサムさんに、稲荷湯長屋に携わるようになった経緯や、日々どんな人が訪れているかなどお聞きしました!
過去記事では稲荷湯長屋がどんな場所かも紹介しているので、あわせてご覧ください。

サムさんってどんな人?

菊野:まずは、サムさんの経歴について教えていただきたいです。

サムさん:僕はアメリカ出身で、高校時代に交換留学で初めて日本の新潟に来ました。その後アメリカの大学に行って、24歳の時に東京に戻ってきて、東京大学の大学院で都市社会学の勉強をしていました。
当時は大学の近くのシェアハウスで暮らしていて、文京区とか台東区とか、その辺りをよく回っていたんですけど、古い街並みがどんどんなくなっていく光景を目の当たりにして。
街中の空間について研究していたこともあって、少しずつこういう活動をするようになったんですよね。
せんとうとまちや稲荷湯長屋に関する活動は、金銭的に言えばボランティアのようなもので、本業は翻訳と執筆の仕事です。

菊野:翻訳、執筆のお仕事もされていたんですね!稲荷湯長屋のほかにも、尾道の方で改修に関わっている建物があると以前お聞きしたかなと思いまして。

サムさん:古い建物が本当に好きなので。ほかには赤坂にある古民家を改装した「東京リトルハウス」というカフェとホテルに、広島の尾道では空き家を2軒改修しています。
地域のための場所をつくろうとしているんですけど、仕事としてではなく、ライフワークっていうか。好きだから、街と接点を持ちたいから、そういう活動をしていますね。

街を残すために、銭湯を残す

菊野:滝野川稲荷湯や稲荷湯長屋も含めて、銭湯にフォーカスするようになったのは、どんなきっかけからですか?

サムさん:大学院時代、本郷で暮らしていた頃は近くに銭湯が何軒かあって、そこに通っていたんですけど、そのなかでたまたま「せんとうとまち」の代表の栗生さんに出会って。
昔ながらの銭湯がどんどん取り壊されてしまっていて、栗生さんはそれをどうにか保存しようっていう活動をしていたんですよね。
僕もその活動に関わるようになって、銭湯が廃業するときに記録に行ったり、オーナーさんに話を聞いたり。
なぜ銭湯に着目し始めたかというと、銭湯は街のなかで重要な役割、中心的な役割を果たしているんです。
銭湯の周りに生活圏があって、商店であらゆる買い物ができて。多分40年ぐらい前までは、銭湯から徒歩200メートルぐらいの圏内で完全に生活できたわけです。
銭湯とその周りの街にかつてあった生態系は、現代では廃れてしまっているところが多くて。
銭湯がなくなると、そこに通っていたお客さんの行動パターンが変わって、近くの個人商店にも立ち寄らなくなって、銭湯とともに周りの個人商店も消滅することが多いんです。
だから、「街を残すんだったら銭湯を残す必要がある」っていう考え方から、銭湯に着目して色々と活動しています。

稲荷湯長屋ができるまでの経緯

サムさん:2019年に稲荷湯さんと出会って、稲荷湯を有形文化財に登録するための手伝いをしていました。
ちょうどその頃、アメリカの財団から文化遺産の建物を保存するための助成金が出ると聞いて。
稲荷湯の銭湯の方の修復ももちろんあったのですが、オーナーさんが「20年ぐらい前から空き家になっている長屋があるよ」と。ガタガタの建具を開けたら、中は腐っていて廃墟みたいな感じだったんです。
この建物を再生して、銭湯が果たす地域の役割をさらに充実させる場所をつくるのはどうかと。その内容で提案してみようって。
財団への申請書を英語で書いて送ったら選ばれて、日本円で2,000万円ぐらいの助成金をもらったんです。
ただ古い建物を綺麗に残すだけじゃなくて、人が日常的に活用できる、地域を重視した提案だったから、おそらく選ばれたのかなと。
そこから計画と工事をして、完成したのがちょうど3年前ですね。
最初は稲荷湯長屋での出店も全部自分たちでやっていたんですけど、少しずつ関わる人や出店する人が増えて、運営する立場になりました。


菊野:普段翻訳や執筆の仕事をしているサムさんが申請書を書いていたというのは、とても心強いですね!

サムさん:銭湯は街の人たちが集まる場所。ご高齢の方、若い人や、この街に引っ越してきたルーツのない人でも、主体的にその街に関われる場所が銭湯の隣にあれば、昔からある稲荷湯の価値もより上がるのではと考えていました。
実際いろんな出店者がいて、出店者のファンや友達とかがやってきて、その人たちがついでに稲荷湯に入るっていう。何か開催することをきっかけに銭湯を利用する、そういう好循環も生まれていますね。

菊野:確かに僕が稲荷湯長屋で出店していたときも、お風呂あがりの人とか、映画とかドラマのロケ地になっているから来ましたって人も立ち寄ってくれて嬉しかったです。
あとは、初めて滝野川に来た友達とかも、せっかくだからとお風呂に入ってました。
僕もお風呂に入ったあとはゆっくり休憩したい派で、こういうスペースがある銭湯ってすごい好きです。

サムさん:実際に、そういう風に活用してくれるお客さんが多いですね。家族で来て、先にお父さんが上がってここでビールを飲みながら待っていて。後から子供と奥さんが来たりとか。
待ち合わせの場所とか、風呂上がりにゆっくり休憩する場所として使われてます。
稲荷湯長屋では、どんな人が出店している?

菊野:稲荷湯長屋でこんな出店があったとか、どんな出店が相性がいいとか、その辺りもお聞きしたいです。

サムさん:そうですね、結構変わってきてはいて。最初の1年は僕たち自身が店番をやりつつ色々と試していた時期で、そのときに来てくれた人と話が盛り上がって、コラボイベントを開催したりしました。
例えばチョコレート屋さんが来て、ここでチョコレートカフェを出店しつつ、カカオのカスカラをお風呂に入れてカカオ風呂をやったり。
山形の方たちがリンゴカフェを出店して、お風呂にもリンゴを入れたり、僕の友達が瀬戸内から来て、瀬戸内の柑橘カフェをやって、柑橘をお風呂入れたり。そういうイベントも結構ありました。

菊野:お風呂と連動したイベントも開催していたんですね!

サムさん:かようびのおいなりさんが初めてここに来てくれたときは、狐祭りっていうお祭りみたいなイベントを開催していて、おいなりさんのほかにもアート教室とかマッサージとか。
一昨年くらいから少しずつ定期出店者が入り始めて。かようびのおいなりさんもレギュラーで入ってくれたり、金曜日にはここで整体をやってる方がいたり。
多分、お風呂が隣にあって、こういう空間なので、出店者とのミスマッチがあまり起きないんです。ここはどういう場所なのか、直感でわかってくれている感じがして。

我々の理想としては、かつて銭湯の周りにあった街の機能をここで再現できたらいいなと思っています。
あとは引っ越してきて、まだこの街で繋がりのない若い人たちにも稲荷湯長屋を活用してもらって、街の一員のように感じてもらえたらというのもあります。
実際そういう方も結構いて、近くのマンションに引っ越してきた夫婦がここでジャズライブを開催してくれました。旦那さんが友達とジャズライブをやって、奥さんが軽食を出して。
そういうふうに、街に関わりたいっていう人が増えたら嬉しいですね。
常連さんと新しい人、両方に喜んでもらえるような場所にしたい

菊野:まずは稲荷湯に来てお風呂に入ったり、ここに来て出店しているのを見て、私もやってみたいと出店を始める人が多いですか?

サムさん:そういう流れが多いですね。
貸しスペースは他にも色々とあると思うんですけど、ここはそんなに商売っ気を出していなくて。
ここを偶然通り過ぎた人とか、実際に話を聞きに来るような人に利用してもらえたら嬉しいですね。
むしろ、ここのことを何も知らず、ただ貸しスペースを探してるような人だと、噛み合わないこともあるのかなと。静かな住宅街のなかにあるので、近隣に迷惑がかからないよう考える必要もあるので。

菊野:やっぱり、稲荷湯長屋の雰囲気とかがいいなって感じている人に使ってもらえるのが一番ですかね。

サムさん:そうですね。あとは、幅広い年齢層の人が来れるような出店、イベントとかも良いですね。
地域の新しい客層を呼び込むという銭湯の課題を考えたときに、子供のいる家族だったりとか、若者とかが来るきっかけになったら嬉しいです。
だけど、高齢の方にとっても稲荷湯長屋ができたことを嬉しく思ってもらえるようにしたいので。
もう100年近くこの地域に大切にされてきた銭湯で、今も60年以上通ってるおじいちゃん、ばあちゃんがいて。もちろん銭湯だけ使ってる方もいるので、そういった方にも迷惑をかけないような形でやろうとしています。
新しいこともやりたいし、いろんな人たちにどんどん来てほしいっていうのはありつつ、地域にもリスペクトを払うという。両方のバランスを上手く取れたらなとは、運営していく上でも考えています。
稲荷湯長屋は街の情報センター

菊野:あのポストカードの写真が気になっていまして。


サムさん:ここが街の情報センターみたいになったら面白いなと思って、近くのお店の取材をして、カードを作ってますね。
これは板橋にある沖縄料理屋さんで。これは角にあった、もう解体されてしまった美容室とか、街のお店をここで紹介しています。
最近引っ越してきて、街や人との接点がまだない人が、ここは面白そうだから行ってみようって思ってもらえるような仕掛けづくりですね。

菊野:写真がとっても素敵ですね!
こういうお店って、ちょっと入りづらいなって思っちゃうときもあるんです。でも、ここで見かけてとか、教えてもらってというのが1個あるだけで、一気に入りやすくなります。

サムさん:そうですね。私もせんとうとまちの他のメンバーも、街の酒場とか個人商店とかが好きで通っているので。そういう自分たちの趣味をここで形にしています。
その地域らしさは、古いところに残っている

菊野:こういう場所をつくるとき、元々あるものをまっさらにして新しく始めることもできるとは思うんです。
歴史や記憶を残して繋げていく活動をしている、その原動力はどこから来ているんでしょうか?

サムさん:今はネット上で、趣味とか職業とかで繋がる時代になっていて、あんまり地域の繋がりを持たなくなっていて。だからこそ、僕は地域の繋がりがすごく必要だと思ってるんですよね。
かつてはそういう地域の繋がりがあって、その名残がまだ街にあるのなら、その歴史を参照しながら、再生したり新しく作り直していくのが大事なのかなと。
だから僕の研究では空き家活用に着目していたんですけど、人口減少で街が廃れて、商店街にシャッターが降りているような場所が日本全国いろんな場所にあって。
その街を元気にしたいと思っている人が、歴史的なものに着目して、街を作り直していくっていう。街づくりの1つの手法ですよね。
別にその方法だけだとは思っていないんですけれど、地域の特有性や独自の文化が古いところに残っていることが多いから。地域に根差したものをつくるなら、そこは無視できないんですよね。

菊野:街の歴史や今までの積み重ねを大切にして、それを踏まえて新しくつくっていくような。

サムさん:私たちの変なこだわりなのかもしれないです(笑)
でも、せんとうとまちのメンバーはみんな、そうやって街で繋がりたい派なんですよ。似た趣味を持つ人とか、そういう人ばかりが集まるのは何か物足りない。おじいちゃんおばあちゃんの話を聞きたいとか、子供と遊びたいとか。
多様な繋がり、他者と触れ合う場所が今の社会には足りていないと思っています。まさしく、銭湯みたいな場所が。

菊野:歴史とかも踏まえてつくっていくと、縦の世代で幅広く繋がれるっていうのは、ありそうですね。

サムさん:そういう風に歴史調査とかをやっている面もあるけれど、稲荷湯長屋の日常使いとしては、こういう考えはそこまで前面に出してはいないです。でも自然とそういう繋がりが生まれる瞬間を見ると、すごい嬉しいですよね。
おばあちゃんたちが子供と話していたりとか、知らない人たちが仲良くなったりとか、そういったことが、稲荷湯長屋だと自然に起きるので。
この活動はちょっとこう、意識高く見える研究の面もあるけれど、街の熟成をそっと見守るみたいな面もあります。

街の物や記憶を溜めて、新しく活用する

菊野:稲荷湯長屋って、懐かしさとかもあって、居心地がとても良いですよね。
元々の建物で使われていた建材を再利用したりと、この場所が積み重ねてきた時間を丁寧に活かして改修したからこその居心地の良さなのかなと思っていまして。
改修はけっこう大変だったのでは?

サムさん:工事は1年ぐらいかかりました。一度完全に柱だけの状態にして、新しく基礎を打って、構造補強して、壁を作り直してと。様々な職人さんに関わっていただきました。
壁が土壁になっていたんですけれど、その工法で作り直せる職人さんを探して、ワークショップを開催しながら街の人たちと壁を塗ったりして、丁寧に直しました。
現場の終盤に僕もガッツリ入って、他のメンバーとキッチンを仕上げたり、天井を貼ったり、古い建具や照明器具を見つけたり、質感にこだわりながら内装をつくっていったんです。
時間をかけて改修していたこともあって、銭湯の常連さんとか街のみなさんは結構気になっていたようで、2日間のオープニングイベントには500人近く来てくれました。
オープンしてからも、いろんなものを引き取って使っています。例えば中山道沿いに杏仁豆腐やかき氷を出す、90歳ぐらいのおじいちゃんおばあちゃんがやっていた店があったんです。そのお店が閉店したときに、そこにある椅子とか色々ともらって、ここに持ってきているんです。


そういう風に、街の中から物とか記憶をここに溜めて、新しい人たちが新しい形で活用するっていう、そういう場所になったら良いなと思っていて。
さらに言えば、将来の希望としては、ここで出店している人たちが街で自分の拠点を持つようになって、街にお店が増えていく。そういう流れをつくっていけたら嬉しいですね。
そんな背景もあって、ずっと活動してます。
出店する人へのメッセージ

菊野:最後に、稲荷湯長屋での出店を考えている人にメッセージがあれば、ぜひお願いします!

サムさん:銭湯が隣にあるので、街の方々が喜ぶ出店やイベントをやってもらえたらというのはあります。
でも、ここを本当に自由な形で使ってもらえたらなと。近隣の方々に迷惑さえかからなければ、なんでも大丈夫なので。
銭湯があることを楽しんでもらって、それで、初めて来る人にも「お風呂があるよ」と伝えて頂けたら嬉しいですね。

菊野:ありがとうございます!
あとがき
お店やイベントにおいて、その場所の雰囲気は、訪れる人の満足度においてとても大事な要素になると思います。
だからこそ、ポップアップする場所を考えるときに、自分の提供するサービスや、こんな出店風景をつくりたいという想いにピッタリな場所を見つけるのもけっこう大変だったり。
街の銭湯の役割や、歴史を知ることの大切さと面白さ、そして稲荷湯長屋にまつわる活動のなかでの想いを、サムさんにたくさんインタビューさせていただきました。
今までの歴史を大切にして改修された場所だからこそ、とても居心地が良くて、訪れた人が「ここで出店してみたい」と感じるのも納得な場所でした。
まずは稲荷湯でお風呂に入りつつ、湯上がりにぜひ一度稲荷湯長屋でゆっくりしていってください!
基本情報
稲荷湯長屋
住所:東京都北区滝野川6-27-17
アクセス:JR「板橋駅」東口から徒歩8分ほど
Instagram:https://www.instagram.com/inariyu.nagaya/
Web:https://sento-to-machi.org/nagaya/
営業カレンダー
最新情報・詳細はInstagramから
利用料金
一日イベントまたは定期出店
平日 ¥5,000、土日祝 ¥10,000
内輪の懇親会、勉強会、展示会等
座敷 1時間 ¥2,000~、1日¥12,000~
全体 1時間 ¥3,000~、1日¥20,000~
※ 税別価格
※ 利用可能時間:10時~21時(22時完全撤収)
※ 撮影等の商業利用の条件については、別途お問い合わせ下さい。
2025年9月時点、稲荷湯長屋Webサイトより
最新情報・詳細はWebサイトをご確認ください。
ご利用に関しては、お問い合わせフォームよりご連絡ください。
EDITOR:菊野泰斗
PHOTOGRAPHER:風香

